相続放棄
相続財産には、債務などの消極財産も含まれている場合があり、相続は債務などの消極財産も含めて承継するものですので、相続をすることが相続人にとって不利益となる場合があります。
そこで、相続の放棄が法律上認められています。
もっとも、相続の放棄はいつまでもできるというものではなく、相続人は、原則、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、放棄をする必要があります(915条)(相続人がこの期間内に限定承認も放棄もしなかったときには単純承認したものとみなされます(921条2号)。
なお、この三箇月の期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができるとされています(915条ただし書)。
また、相続人が未成年者又は成年被後見人である場合は、前記三箇月の起算点は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算するとされています(917条)。
相続放棄は、家庭裁判所にその旨申述しなければなりません(938条)。かかる家庭裁判所は相続開始地を管轄する家庭裁判所となります(家事事件手続法201条1項、別表第1の95)。
なお、921条各号に該当し、法定単純承認がなされたものとみなされる場合、前記三箇月以内であっても、相続放棄はできなくなりますので注意が必要です。特に、相続人が、保存行為や短期賃貸借を除いて(921条1号ただし書)、相続財産の全部又は一部を処分したときには、法定単純承認がなされたものとみなされる(921条1号)ので注意が必要です。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす(939条)とされています。初めから相続人とならなかったものとみなされる結果、放棄者の直系卑属がいても、放棄者を代襲することありません。
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない(940条1項)とされています。
もっとも、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる(940条2項、918条2項)としており、これにより相続財産管理人が選任される場合があります。
遺言の検認
公正証書遺言を除く遺言については、遺言書の保管者(保管者がいない場合は遺言書を発見した相続人)は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない(1004条1項、2項)とされています。これは、遺言書の偽造・変造・滅失を防止し、遺言制度を公正に運用するために行われます。
もっとも、遺言の検認により、その遺言内容の真否、遺言の有効・無効が判断されるものではないので注意が必要です。
遺言の検認は、遺言書の保管者(保管者がいない場合は遺言書を発見した相続人)が相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行う必要があります(家事事件手続法209条1項、別表第1の103)。
相続人等には、申立後、家庭裁判所から検認期日の通知がなされます。かかる検認期日に立ち会うかは各人の判断に委ねられます(なお、保管者は、当然立ち会うということとなります。)。
検認のため遺言書の提出を怠った場合、検認を受けずに遺言を執行した場合又は家庭裁判所外においてその開封をした場合には、5万円以下の過料に処せられます(1005条)。